消えた未来
 でも、引き下がるようにも見えなかったから、俺は弁当を持って席を立った。

 教室以外に行くところと言えば保健室しかないから、大人しく蘭子のところに向かう。

「体調は?」

 蘭子は、俺が保健室に入ると、毎回一番にこれを聞いてくる。

 毎回となると鬱陶しく感じるものだろうが、過去にやらかしたことと母さんたちのことを思うと、そうでもなかった。

「平気。てか、疲れた」
「なにそれ」

 蘭子は笑いながらむすびを齧る。

「だからあの二人に話すのは反対だったんだよ。あ、ベッドの上で食べないでよ」

 真っ直ぐベッドに向かったら、流れるように注意された。

 逆らってもいいことがないのは知ってるから、黙って席に着く。

 しかしながら、どうして疲れたのかわかったらしい。

 そう言われると、返す言葉もない。

「相手が病人だってわかって、今まで通りに接することができる人なんて、そうそういないんだから」

 これは恐らく、俺が腫れ物扱いされていると思っているだろう。

 俺も、最初はそうだと思った。

「病人扱いというより、思い出作りしたいって方向性だけどな」
「なにが違うの」

 これは厳しい。

 俺は苦笑しながら弁当箱を開ける。

 母さんの仕事を減らすために自分で作っているから、なにが入っているかの楽しみみたいなものはない。
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