消えた未来
 星那は私のもとに戻ってくると、そのまま抱き着いてきた。

「……頑張れ」

 星那は絞り出したような声で言った。

「ありがとう」

 そして私も星那を抱き締めた。

  ◆

 翌日、ちゃんと久我君に謝りたかったのに、久我君は来ていなかった。

 その次の日も、さらに次の日も、久我君は姿を現さなかった。

 それだけ休みが続くのは妙だと思って高瀬先生に話を聞きに行っても、個人情報と言われ、教えてもらえなかった。

 こうして理由もわからないまま、久我君が休み続けて、一週間が経った。

「そして、もう一つお知らせがあります。久我侑生さんですが、先日学校を辞められました」

 加野先生が、朝のお知らせの最後にそう言った。

 教室内に戸惑いが広がる。

「なんで辞めたんですか? 退学ですか?」

 久我君のことを嫌っていた女子生徒が、声を上げた。

 知りたくない思いのほうが強くて、私は耳を塞ぐ。

「個人情報です」

 それでも先生の強くまっすぐな声が、耳に届いた。

 高瀬先生と同じ言葉を使ったのに、時と場合でこんなにも印象が異なるなんて思っていなかった。

 そして、知らずに済んだことに対する安心感のあとは、もうずっと久我君に会えないことへのショックが大きくなった。

 心に、大きな穴が開いたような気がした。
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