消えた未来
 生徒がいなくなっても、加野先生が机を片付けない理由は知らない。

 だけど、この席が存在してくれることで、私の心は幾分か救われていた。

 確かに久我君がいたことを証明してくれる場所だから。

「……諦めないの?」

 星那は私の顔を見なかった。

 聞きにくいことを聞いているのは自覚しているらしい。

「諦められないの」

 ここまで来ると、自分でも意地になっているだけではないかと思うときがある。

 そういうときは大抵、諦めたほうが楽になれるだろうから、諦めようという結論に至る。

 だけど、数時間後には次の手段を考えている。

 結局、単純な話だった。

 久我君に会いたい。

 それだけなんだ。

 まあ、恥ずかしくて口にはできないけど。

「そんなに久我のことを好きになってたなんて、知らなかった。酷いこと言われても、好きなの?」
「だから、それは自業自得だったって言ったでしょ。久我君を嫌いになる理由にはならない」

 そう言うと、星那は呆れた表情を見せた。

「会えるといいね」

 星那がなにを思ってそれを言ったのかはわからない。

 それを受け取った私が嬉しいと思ったのだから、そこはわざわざ深堀をしなくてもいいだろう。

「頑張る」

  ◆

 そして、久我君に会えなくなって、一年と六ヶ月の時が過ぎた。
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