消えた未来
「会いに行かないの?」

 久我君の病気のことは除いて、出来事と私の感情を少しだけ説明すると、月渚ちゃんは落ち着いた様子で聞いてきた。

「会いたいけど……私には、会う資格がない」

 それに、どんな顔をして会えばいいのかもわからないし、なにより、またあのときみたいに言われるかもしれないと思うと、怖かった。

「真央ちゃんは気にしすぎだと思う。それくらいのわがままは可愛いもんだし。ルナなんて、もっとやばいことしてたもん」
「やばいことって?」

 流れるように聞いて、これは簡単に踏み込んでいい部分ではなかったことにすぐに気付いた。

 だけど、もう言ってしまったから、後悔しても遅い。

「好きな人の家に押し掛けた。ね、やばいでしょ」

 言葉に迷う。

 こういうときは、なにを言うのが正解なのだろう。

「それに比べたら、好きな人と楽しいことがしたくてしたことは、自分勝手な行動じゃないよ。たとえ、どれだけ相手が乗り気じゃなかったとしても、それを考えるのは悪いことじゃない」

 月渚ちゃんの言葉で、心が軽くなった。

 時間が経って、あの傷はある程度癒えたと思っていたけど、それはただの勘違いだったみたいだ。

 ただ、その傷の深さに慣れただけ。

 今、そう言われて、私は泣きそうになっていた。
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