まだ心の準備ができていなくて、帰りたいと思ったけど、先生の力が強くて、逃げられなかった。

 こうなれば、先生に、私と久我君を会わせたくないと思わせるしかない。

「あの、私、久我君に迷惑をかけて謝れていないですし、会う資格ないです」

 月渚ちゃんが聞いたら、またそんなことを言ってと怒りそうだ。

 それなりにマシになったとはいえ、あの一言ですべてを覆せてはいなかった。

「あのときのこと、そんなに気にしてたんだ。まあ、トラウマになるレベルで酷い言い方だったし、当然か。でもあれ、侑生の嘘だから」
「はい?」

 信じられない言葉に、思わず聞き返してしまった。

 嘘って、どこからどこまでが嘘なのだろう。

 そもそも、今の発言を鵜呑みにしてもいいのか。

 いろいろ考えを巡らせるけど、ただただ混乱しただけだった。

「私から説明してもいいんだけど、こういうのは、本人から聞くべきだと思う」

 先生を諦めさせるために過去を持ち出したのに、結局会うことになってしまった。

 逃げ道もなさそうで、大人しく従うしかなさそうだ。

 先生について廊下を歩いていくこと数分、先生は足を止めた。

「あれ、またどこか行ってる」

 とある病室を覗き込んで、独り言をこぼした。

 どうやら、まだ会うまで時間がありそうだ。

 私は心の中で安堵のため息をついた。