消えた未来
 今の私は、お父さんたちが敷いたレールの上を走っているだけ。言わば、お父さんとお母さんに作られた『織部真央』だ。

 私が私を生きているとは思えない。久我君の言葉を借りると、私だけの人生なのに、私が生きていない。

 そう思った途端、目の前が真っ暗になったような気がした。ずっと綺麗に見えていた桜の道が、見えない。

「おい、大丈夫か?」
「大丈夫、です」

 自分で聞いても大丈夫だとは思えないような声だったけど、それ以外に言いようがなかった。

 案の定、久我君は疑いの目を向けてきている。その中に心配の色が見えるのは、きっと気のせいだろう。

 深掘りされる前に逃げてしまったほうがよさそうだ。

「すみません、私、帰ります」

 逃げ出すように、その場を離れる。

『誰かに八つ当たりする前に、自分の好きな生き方でもしたらどうだ』

 できるなら、そうしたい。

 でも、今さら自分の思うように生きたいと思っても、どうすればいいのかわからない。そもそも、自分がなにをしたいのかがわからないんだ。

「久我君みたいになりたい……」

 久我君はきっと、自分が好きな生き方をしている。それが、とても羨ましかった。

 少し話しただけなのに、久我君の印象が大きく変わっていた。
< 22 / 165 >

この作品をシェア

pagetop