消えた未来
 星那ならまだしも、初めて話して数日しか経っていない人に、家のことを話すのには抵抗があった。

 だけど、変なところで話すのをやめてしまったから、久我君は続きを待っている。

 ここで誤魔化したところで、きっと久我君は納得してくれないだろう。

 だからこそ、どうすればいいのかわからなかった。

「悪い。そこまで困らせるつもりじゃなかった。とにかく、士とのことが聞きたかっただけだから」

 そんなに士君のことを大切にしているのも意外だったけど、久我君が謝ったことのほうが驚きだった。

「なにをそんなに驚いてんだよ」

 それが顔に現れていたらしい。私は顔を背ける。

「誰にでも、一つや二つ、他人には言えないことがあるだろ。それを無理矢理聞くのは、無神経な奴がすることだ」
「……久我君は違うと?」
「俺をなんだと思ってんだ」

 睨んでいるのとは違う、不機嫌そうな顔だ。今の会話のテンポも相まって、思わず笑ってしまった。

 そのとき、始業式の日の先生と久我君のやり取りを思い出した。

 あのとき、久我君は先生の言葉を遮っていた。先生が久我君の秘密を知っていて、久我君は隠そうとした。そう思えば、今の言葉も納得できる。

 久我君にも、誰にも知られたくないことがあるんだ。
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