消えた未来
「なんであんたが驚いてんだよ」

 少し前まではあり得ないくらい、今の私は久我君と話すことに抵抗がなかった。

 だけど、私の脳は久我君と普通に話せるようになっている事実に追い付いていなかった。

「仕方ない。一時間目には戻ってくるか。あんたが俺にいてほしいみたいだし?」

 久我君は私をからかう気しかない笑みを浮かべて言った。意地悪い表情なのに、不思議と嫌な気持ちはしなかった。

「不良君にはいてほしくないです」

 今なら、これくらいの軽口を言っても、久我君が怒らないことはわかっていた。

 予想通り、久我君は笑っている。

「織部さんって、そんなに正直に言える人だったんだ。そっちのほうがいいよ」

 久我君はそう言いながら、結局教室を出て行った。

 話し相手がいなくなってから、しばらく固まっていた。

 何度も笑顔を向けられたり、ちゃんと名前を呼んでくれたり、認めてくれたり。

 初めて話したときからは想像できないことが一度に起こって、さっきのは私の妄想だったのではないかと思ってしまう。

「真央、今、久我となに話してたの? というか、久我、笑ってたよね?」

 でも、青い顔をした星那に言われて、現実だったのだとわかる。

「内緒」

 この喜びを誰かと共有したいという気持ちと、私だけの秘密にしたいという気持ちが混ざって、私は言わないという選択肢を取った。
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