消えた未来
第五話
 次の日の放課後、お姉ちゃんは校門前で私の数学担当の先生と話していた。

 ここはお姉ちゃんの母校で、卒業してまだ二年も経っていないから、知り合いの先生がいるのは、なにも不思議じゃない。

 私に気付くと、お姉ちゃんは私に手を振った。

「織部、こんな姉を持つと大変だろ」

 二人の近くに行くと、先生がにやにやとしながら言った。

 冗談で言っているのは顔を見ればわかるけど、私は重く受け止めてしまった。

「ちょっと先生、変なこと言わないでくださいよ。私、真央の前では完璧なお姉ちゃんなんですから」
「織部が? 完璧?」

 先生が鼻で笑うと、お姉ちゃんは先生の肩を叩く。

 二人が仲がいいのはわかったけど、頭が追いついていなかった。

 お姉ちゃんが完璧だっていうのは嫌というほど知っているけど、今のニュアンスだと、お姉ちゃんは演じていたということになる。

 なんだか、聞いてはいけないことを聞いてしまった感じがする。

「真央、帰ろう?」

 きっと、いたたまれないという表情をしていたと思う。

 だからか、お姉ちゃんは少し申しわけなさそうな、優しい声で言った。

「じゃあ先生、また来ますね」

 私はお姉ちゃんに腕を引かれて学校を後にした。
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