消えた未来
 私の前にも、アップルパイが運ばれてくる。

「真央は、好きな人とかいないの?」

 アップルパイを食べようとフォークを手にしようとしたら、お姉ちゃんがチョコケーキを食べながら言った。

 どうやら、興味をなくしたわけではなかったみたいだ。

 ただ、目の前のケーキに意識がいっただけか。

「……もうその話は終わったと思ったんだけど」

 一口分を切り取ると、そのまま口に運ぶ。

 サクサクのパイ生地、甘い林檎、滑らかなカスタード。

 どれも私の好みで、お姉ちゃんが幸せそうに語っていたのもわかるというくらい、美味しい。

 本当に美味しいのに、思うように言語化できないのがちょっと悔しい。

「妹と恋バナ、してみたかったの」

 お姉ちゃんもケーキを食べて、頬を綻ばせた。

「初恋もまだな私と、話すことなんてないと思うよ。というか、お姉ちゃんのほうこそ、どうなの?」

 質問を返すと、お姉ちゃんはわかりやすく視線を泳がせた。

「お姉ちゃん?」
「いや……うん、この話題はやめよう」

 お姉ちゃんにも、恋愛関係の話題がないようだった。

 そして私からも聞かれてしまうとわかったからか、お姉ちゃんは恋バナというものをしようとしなかった。
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