消えた未来
 星那自身がそこまで気にしていたなんて、知らなかった。

 やっぱり、少しは本音を隠すのも大切なのかもしれない。

 そんなことを思いながら、星那の頭に手を置いた。

 普段はよく星那に撫でられるけど、私が星那を撫でることなんて滅多にないから、私も違和感があった。

「心配してくれて、ありがとう」

 星那に素直な感謝の気持ちを伝えながら、私は久我君にもお礼を言わなければならないと思った。

「真央?」

 私の意識がどこかにいってしまっていることが気付かれて、星那は不思議そうに私を見上げている。

「ごめん、星那。私、ちょっと行かないといけないところが」
「久我のところ?」

 わざと言わなかったのに、星那に確認されて、戸惑いながら頷いた。

 どうしてわかったのかと聞いてもよかったけど、そうしている時間はなさそうだった。

「いってらっしゃい」

 星那に見送られて、私は教室を出る。

 久我君がどこにいるのか知らないけど、この前みたいに保健室にいることを願って、そこに行ってみる。

「侑生、気が緩んでるんじゃないの」

 保健室に着くとドアが開いていて、怒りの込められた声が聞こえてきた。

 予想通り、久我君はここにいるみたいだ。

「薬忘れるとか、あんた、死ぬ気なの?」

 次は、確かにそう聞こえた。

「久我君が……死ぬ……?」

 小さな声で繰り返したけど、私の頭はそれを理解しきれなかった。
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