消えた未来
 ただ、周りの目も気にせずに涙を流し続ける母さんを見て、よくないことを言われたんだと思っていた。

「治療はできないんですか?」
「もう少し早く発見できていれば、違ったかと」

 のちの主治医である皇先生が言うと、母さんは俺に抱きついた。

 そのときはひたすら不思議でしかなかったが、今では後悔しかない。

 我慢するところを間違えて、母さんを苦しめてしまった。

 何度も、ちゃんと素直に言っておけばよかったと思った。

 そして母さんも、おそらく俺が我慢していたことに気付いたんだろう。

 毎朝のように、体調を聞いてくるようになった。

 これは俺が正直に言わなかったから、母さんが心配して言っているんだと思って、申し訳ないと思いながら過ごしていた。

 でも、変わったのは家での生活だけじゃなかった。

 学校では、できていたはずのことを禁止されて、クラスメイトの目も、俺をかわいそうだと言っているみたいで、居心地が悪かった。

 最初は病気だとか余命だとかよくわかっていなかったけど、周りの態度が、それを思い知らせてくれた。

 ああ、俺はもう普通じゃないんだ。

 普通では、いられないんだ。

 そう思ってから、すべてがどうでもよくなった。
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