消えた未来
 私、この笑顔をずっと見ていたい。

 初対面のころの冷たい視線ではなく、この柔らかくて暖かい笑顔を。

 久我君と楽しいことをすれば、久我君はずっと笑っていてくれるだろうか。

「織部さん、俺の顔になにかついてる?」

 唐突に名前を呼ばれて、上手く反応ができなくて、必要以上に首を横に振った。

 少し前までは名前を呼ばれる距離感になれたことに対して喜んでいたはずなのに、今では久我君が私を見て、名前を呼んでいるだけで、胸のあたりが嬉しさで締め付けられる。

 いつの間に、こんなに変わってしまったのだろう。

 だけど、私はこの変化が少しも嫌ではなかった。

 久我君のことが好きなのかどうかわからずにいたというより、認めようとしなかったけど、これはもう、認めるしかない。

 そうなれば、私だって幸せな道に進みたい。

『自分のためにすることが、案外相手のためになることもあったりする』

 星那の適当な言葉だったのかもしれないし、信憑性はないけど、私はこれを信じることにした。

 星那の言う通り、迷惑をかけるなんて今さらなんだ。

 もう、とことん久我君を振り回してしまおう。

 そして願わくば、久我君と笑い合っている時間が増えたらいいな。
< 99 / 165 >

この作品をシェア

pagetop