宿敵御曹司の偽り妻になりました~仮面夫婦の初夜事情~
平凡な幸せ



 あの日…。
いきなり婚姻届けにサインした日から、4か月近くが過ぎた。
新緑の季節から梅雨を過ぎて、暑い夏を迎えている。

一花は、本州側の小さな町からつい目と鼻の先の距離にある、とある島にいた。
橋が無いので、フェリーがしょっちゅう両側の港を行き来している。
船が離岸してから5分もあれば着く島には、水杉家が所有する別荘があった。


別荘…というより、その敷地にあるコテージの様な別棟に一花は住んでいる。
『離れ』と言ってもいいだろう。

婚姻届けを書いてすぐ、陸は仕事があると東京へ行ってしまった。

弁護士の田沼から、陸は忙しくあちこち飛び回っているから、
暫くはこの島にある別荘で暮らすように言われて、一花は独りやって来たのだ。


この島は瀬戸内でも観光名所と言われるだけあって、ペンションや別荘が何件もあった。
対岸にはギリシア風のホテルも建っているしヨットハーバーもある。

チョッと見は、エーゲ海に似せているのだろう。オリーブ園も近くにあると聞いた。

かつて、水杉家が所有していたという小さな島はここから見える位置にある。
大田原から取り戻して島をどうするかは聞いていないが、
確かに小さいが、形の良い小高い丘があり緑に覆われた島だ。狭いが砂浜も目で確認できる。

あの島が、自分の運命を変えたかと思うと複雑だったが、
廃棄物の処分場にするなど、とんでもない。

美しい島を守れて良かった。
国立公園内で法に触れる事にならなくて良かった。


温暖な気候、素朴な地元の人達、美味しい物も沢山ある。

そんな島で、一花はのんびりと暮らしている。


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