あの会食以来、大人しかった有川千穂はなにかと俺に絡んでくるようになった。
私語が増え熱視線を送られさりげなく触れられる。
あからさまな態度の変化にさすがにたじろいだ。
周りの人間も有川の態度を承知しているようでなにも言わない。
有川が俺の嫁候補との噂は浸透しているのだろう。厄介なことだ。
一週間ぶりに茉緒と逢える日。
早めに仕事を切り上げ待っているだろう茉緒の許へ急ごうとエレベーターへ向かう。
「待ってください風間さん、もうお帰りですか?」
有川に呼び止められ嫌な予感がした。
歩みを止めず隣に並んだ有川をちらりと見る。
「どうした、君も今日の仕事は終わってるはずだ。早く帰りなさい」
「あの、せっかくですし、お食事、行きませんか?」
顔を赤らめもじもじとしている有川に顔が引きつった。
エレベーター前に着きボタンを押すとすぐに扉が開き俺は乗り込み振り返る。
エレベーター内にまで付いてこようとしていた有川は俺に行く手を阻まれ足を止めた。
「悪いが用事がある。有川は気をつけて帰るように」
「あのっ」
まだ何か言いたそうな有川だったがぴしゃりとドアは閉まりほっと息をついた。
あからさまな態度はあるがだからと言ってはっきりと好意があるとも見合いのことも言ってこない有川にどう対応していいものか悩ましいところだが、こうやって地道に有川に好意はないと態度で示していくしかないな。
そして茉緒だ。
余計な心配を掛けさせたくないから有川のことは黙っておきたい。
陸翔も黙っていておいてくれているうちに解決したいところだ。
先が思いやられるな、と考えてるうちに待ち合わせ場所にいる茉緒を見つけてそんな悩みが吹っ飛んだ。
久しぶりに逢えて照れてしまったがやはり茉緒がかわいく見えて触れたくてしょうがなかった。
茉緒が好きだ。
この気持ちに偽りはない。
長い回想をしているうちに俺はマンションに帰っていた。
陸翔と茉緒がいた頃は賑やかだった家は今はどこか物悲し雰囲気だった。