キス魔な御曹司は親友の妹が欲しくて必死です
そんな私を智成は窘める。
「茉緒、あんまり渋ってると陸翔にバレるぞ」
お兄ちゃんにバレないようにと私が言ったときはあんなに不機嫌だったくせに、今は余裕そうにくすくす笑う智成を少し恨めしく思う。
智成は寂しくないの? 離れ離れになってもいいの? あんなに不安そうに私を抱いたくせにとつい不満が出そうになる。
「言っただろ? 離れて住んだって俺たちが恋人同士なのは変わらない。代わりに外で待ち合わせして沢山デートしよう。陸翔がいない分思う存分甘やかしてやるから」
「うん」
抱き寄せられて智成の胸に体を預けほうっとため息をついた。
前向きな智成の言葉と温かい胸に安心感が湧いた。
そして、三度目の不動産巡り。
私が智成の家に居候になって二カ月が過ぎていた。
二件目に訪れたマンションに入り、わあっと声を上げ私は部屋を見回した。
2LDKのこの部屋はナチュラルウッドの床、タイルを基調としたキッチン、ひと部屋は一面だけピンクに花柄の壁紙が貼ってあり、もう一部屋は一面だけスモークブルーの壁紙でとてもお洒落だった。
リビングは八畳と物を置いたら少し手狭かもしれないけどすごくおしゃれでかわいくてひと目で気に入ってしまった。
玄関もオートロックでセキュリティーもしっかりしており文句の言いようがなかった。
目を輝かせあちこち見て回る私にお兄ちゃんは満足げな顔をして、担当者さんと話を進める。
ここでお兄ちゃんとふたり暮らしが始まる。
智成と離れるのはやっぱり寂しいけど、私も前向きに捉えようと思った。
お兄ちゃんが智成に住むとこが決まったと報告すると「そうか」とひと言言っただけだった。
寂しさも滲ませず淡々としている智成にちょっと胸がずきっとする。
でも、智成はお兄ちゃんの目を盗んで私にキスして微笑んだ。
それだけでなんだか安心できて気持ちが軽くなった。

< 96 / 252 >

この作品をシェア

pagetop