耳もとで囁き、わざとらしくちゅっとリップ音を立てて零士さんが耳朶に口付けを落とす。
離れていく顔をただ見ていた。

「風呂、入ってくる。
明日は買い物に行くんだから、清華もさっさと寝ろよ」

「あ、……はい」

私をおいて部屋に戻っていく零士さんを、起き上がって見送る。
ひとりになり、どっと現実が襲ってきた。

「え、あれなに?
なんなの?」

零士さんと私はただの政略結婚、で。
零士さんだってよき夫は演じていたが、そこに愛だのなんだのはないはずだ。
なのにさっきの彼は……。

「……本気、だった」

すっかり気も抜け、ぬるくなったシャンパンを口に運ぶ。
お見合いから今まで彼を本気にさせるなにかがあったんだろうかと考えるが、思い当たる節がない。
それに彼の雰囲気が変わったのは、私が好きな人――ただし想定――の話をしてからだ。

「え、なんで?
わけわかんない」

しかし考えたところで答えが出るわけじゃない。
夜も遅くなり、冷えた夜の空気を吸って気持ちを落ち着ける。
どのみち、零士さんを好きになる努力はするはずだった。
なら、なにも問題はない……はず、だ。

部屋に戻ったら、ちょうど零士さんがお風呂から上がってきたところだった。