合わせ鏡の呪縛~転生して双子というカテゴリーから脱出したので、今度こそ幸せを目指します~

目覚め(六)

 ソフィアとしての最後の記憶は、馬車に乗ったところまでだ。

 行き先は、おそらくいつもの王立図書館だったはず。

 昨日は雨が降ったわけでもないのに、侯爵家の馬車がそう簡単に転倒などするだろうか。

 しかし記憶が曖昧な今は、どれだけ考えても分からないだろう。

 ミアに再び声をかけ退出を求めようとした時、ふいにドアをノックする音が聞こえてくる。

「はい、どうぞ」

「ソフィアお嬢様、失礼いたします。グレン様がお嬢様のお見舞いにといらしているのですが、いかがいたしましょう? こんな状況ですので、お断りをしようかと家令と話をしていたのですが」

 1人の侍女が、申し訳なさそうな顔で入室してきた。

 彼女は私付きの、侍女ルカだ。

 おそらく、今家には私より上の身分の者がいないのだろう。

 本来ならば馬車ごと転倒したため、お見舞どころではないはず。

 しかし、相手がグレンならば簡単に断れはしない。

 私の幼馴染でもあるグレン・マクミランは同い年であり、公爵様の次男だ。

 昔から家族ぐるみの交流があり、今宰相補佐官として働いている。

 次期宰相の呼び声高く、ぜひ我が家の婿にと、よく両親が言っているのだ。

 そんな人をそのまま返したとなれば、誰かが怒られるのは目に見えている。
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