合わせ鏡の呪縛~転生して双子というカテゴリーから脱出したので、今度こそ幸せを目指します~

現実(四)

 思わずため息が出る。

 とても厳格で、私からすれば頑固な塊でしかない父と、それに静かに従う母は、こういったことではしゃぐタイプではないはずなのだけど。

「とにかく、着替えますよ」

「はいはい」

 ルカはそれほど大きくない衣装棚を開け、ドレスを物色し始めた。

 ドレスというものを着るのは、本当に大変な作業だ。

 下に着たり履いたりするパーツの多さもさることながら、それをコルセットでこれでもかと締め上げる。

 胸と体のラインを強調するためらしいのだが、太ってはいない私でもこれはかなり苦痛だ。

「これにしましょう」

 ルカが取り出したのは、夜の空を思い浮かべるような深い青のドレスだった。

 マーメイドラインにそのドレスは見た目こそ派手ではないものの、胸元が開いていてこの世界の人間ではなかった私には、いろいろ心もとなく感じてしまう。
 
「ふつ―のでいいんだけど。もっと、ワンピースみたいな」

「ダメです」

 即座に断ると、何かに火のついたようなルカはテキパキとドレスに合う、宝石を探し出す。

「これで胸が綺麗に見えますからね」

 やや大粒のグリーントルマリンのような青みがかった緑のネックレスだ。一体、これだけでいくらするのだろう。

「昼間からこんなの付けたら、肩が凝ってしまいそうね」
 
 これは本音。ただ家で人を呼んでご飯を食べるというだけで、ここまでドレスにこだわらなければいけないなんて。

 貴族というのは、想像よりずっと大変なものらしい。

「お嬢様はまたそんなこと言って。さあ、着替えますよ」
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