合わせ鏡の呪縛~転生して双子というカテゴリーから脱出したので、今度こそ幸せを目指します~

日常(三)

「次はそうね、何か焼き菓子を買いたいのだけれど。ルカ、どこかにいいお店はあるかしら」

「それなら、ちょうどいいお店があるわ。最近オープンして、とても人気のお店らしいのよ」

「お母様、私はそんな混んでいる店はちょっと……」

「下手なお店に行くよりは、絶対にいいわよ」

「それはそうかもしれませんが……」

 嗜好品の値段や砂糖の価値が知りたいだけだから、わざわざそんな混んでいる店に行きたくはないのだけど。

 しかし私の意見を聞くことなく、母はどんどんどんどん進んでいく。

 こうなってはもう、私では止められそうにない。

「諦めましょう、ソフィアお嬢様。きっと、奥様はお嬢様との初めてのお買い物がうれしいんですよ」

 ルカがやや苦笑いしつつ、私の肩に手を置く。

 確かに今まで何となく家族を避けてきたのは私の方だ。

 こんな些細なことで、母のご機嫌が良くなら安いものかもしれない。

 それに、案外私も嫌ではない。少し胸がくすぐったいような、温かいもので満たされていく感じがする。

「そうね、この際だから諦めましょう」

「ほらほら、二人とも置いて行くわよ」

「待って下さい、お母様」

 にこやかな顔で手招きをする母を小走りで追いかけた。

 初夏のゆるやかで、心地よい風が吹き抜けていった。 
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