合わせ鏡の呪縛~転生して双子というカテゴリーから脱出したので、今度こそ幸せを目指します~

出会い(六)

 チャラい見た目のわりに、頭を下げて謝罪をしてくれた。

「いえ」

「お詫びにここの支払いは俺が持とう。本当にすまなかったね」

「お詫びだけで結構です。見も知らぬ方におごってもらうつもりはございません」

「これは、これは。そうだね、俺はキース。覚えてくれれば光栄だ。美しい人よ」

 そう言って、許可もなく手を取ったかと思うと、手の甲にキースは口づけした。

 一瞬、何が起こったのか分からなかった私は、ただ固まってしまう。周りの悲鳴で我を取り戻す。

 しかし気が付いた時には、きびすを返したキースは手をひらひらさせながら、彼女たちの肩に腕を巻き、下へ降りて行った。

「お、お嬢様、大丈夫ですか」

「なんなの、あれ」

 どうしていいか分からず、そのままボスンと椅子に座った。
 
 恋人や求婚相手、またとても親しい間柄なら手にキスをされるのは分かる。

 初対面で、名乗ったからといってしていいものではもちろんないはずだ。

 もっとも、2度目の人生分を合わせても、今までそんな親しい人などいないのだが。

「よほど気に入られたのね、あなた」

「気に入られたって……笑いゴトではないです、お母様。あ、あんな、あんなこと……」

「そーですよ、奥様。ソフィアお嬢様、店員さんに今拭くものをもらってきますので、その手を消毒しましょう」

「ただの挨拶の一種でしょうに。二人とも大げさよ。ソフィアみたいにきっぱりと言う女性は、あの方の周りにはいなさそうだから、だと思うわよ」
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