合わせ鏡の呪縛~転生して双子というカテゴリーから脱出したので、今度こそ幸せを目指します~
出会い(七)
大げさって。
初対面の人間にあんなコトをしているというのに、そんな一言で片づけるなんて。
ああ、そういえば昔、母はとてもモテたと聞いたことがあった。
母にとってこれぐらいのことは、日常茶飯事だったのだろう。しかし、少なくとも私はそうではない。
今までそんな経験などないし、記憶が戻ってからは、どうしても過去の世界との生活にギャップを感じているというのに。
他人事のように、母は私の反応を楽しんでいるように思えた。
ん? あの方とは……。
「お母様、もしかして、先ほどの方ご存じなのですか」
「まったく。知らないのは、あなたくらいよ。キース・ルドルフ・ライオネル様。名前を聞けば、さすがにあなたにも分かるでしょ」
キース・ルドルフ・ライオネル。その名前を反芻する。家名がライオネル。ライオネルって、この国の名前よね。
現国王は、ニルス・ルドフル・ライオネル。国王様に子どもはいないから、キースというのは。
「まさか、あの方が王弟殿下!」
あんなにチャラいのが、現国王の弟……。
私は思わずこめかみを抑える。あり得ないという前に、やってしまったかもしれない。
いくら何でも、あの態度は不敬罪にあたるだろう。
「お母様、知っていたのならなぜ止めて下さらないのですか」
「面白そうだったし、それにこれくらいではなーんとも思わないような方よ」
「そうであっても、止めて下さい」
「そう。じゃあ、次からはしっかり止めるわね」
「次って、お母様。それでは遅すぎます」
ぐったりと、一日分の疲れがのしかかってくる気がした。