合わせ鏡の呪縛~転生して双子というカテゴリーから脱出したので、今度こそ幸せを目指します~
10章
婚約(一)
「今日一番の楽しい話だな。しばらくこの話題で笑えそうだ」
少し、言い過ぎただろうか。でも、妹の婚約者であるグレンと恋人だと言われ、思わず言い返してしまった。
もっとも、近くで見てきた私が言うのだから、ほぼ間違いはないと思う。
やっとの思いで、踊りきると礼をする。
これで失礼させてもらおうと思った時、グレンがやって来た。
そういえば、誰にも引っかけられないように釘を刺されていたな。
それなのに、私は殿下と中央で踊っているなど、嫌味が飛んでくるに違いない。
そう思っていた私にかけられた言葉は意外なものだった。
「紹介する前に、もうそんなに仲良くなったのですか?」
「ああ、グレンか。今ちょうど彼女を口説いているところだ」
「……」
それこそ不敬罪に当たるのではないかと言わんばかりに、呆れたような顔をグレンが向ける。
「露骨すぎだろ。こんなに美しい人を口説いて、何が悪い」
「はぁ。まったく、あなたという人は……。とにかく、奥へ行きましょう」
グレンは殿下の言いたいことなど意に介さずと言わんばかりに、歩き出す。広間集まった大勢の人たちの隙間を抜けて、奥に進み出した。どうやら、どこか落ち着けるところでということらしい。