廃屋の捨てられ姫は、敵国のワケあり公爵家で予想外に愛されています
「だが、泣くのを我慢する必要はない。特に嬉しい時はな」

「えっ!?」

「シルヴェスター陛下と親子だとわかった時、泣きそうだったろう?」

「ダリオン様、知っていたのですか!?」

こちらを窺っている様子はなかった。
いつものように無表情で真っ直ぐ前を向き、事態を静観していると思っていたのに。

「なぜ我慢したのかは知らないが、嬉しい時も悲しい時も泣いていい。今更お前が泣きわめき散らしたところで、評価は変わらないからな」

「あのぅ、それはつまり、どんなに泣いても嫌いにならない、と?」

おずおずと尋ねると、ダリオンはフッと軽く笑った。
ああ、そのギャップは罪です!
憧れの人に認められる嬉しさと、信頼を勝ち取った喜びで、心音が激しく胸を打ち、顔が熱くなる。
「嫌いじゃない」と中途半端な告白をされたけれど、あの感情ゼロの大英雄が言ってくれたのだもの!
これはもう「好きだ」と告げられたのと同じよね!
舞い上がるあまり、私のポジティブ値は限界突破した。

「道中、気をつけて行くがいい。アルカディアでシルヴェスター陛下と心ゆくまで語らい、また……」

「はいっ!またエスカーダ家に帰って来ます。絶対に絶対に、帰って来ますから、待っていて下さい!」

「ああ」

私の鬱陶しいくらいの念押しに、ダリオンはしっかりと頷いた。
そして、優しく頭を撫で、ゆっくりと部屋をあとにした。
不思議なことに、会話の前まで感じていた、別れの寂しさも一抹の不安も、もう心の中にはない。
あるのはただ、暖かい気持ち、それだけだった。
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