オトメは温和に愛されたい
 幼い頃なら温和(はるまさ)と一緒に写った写真が山ほどあったんだけど、大きくなってからは――というより温和(はるまさ)に線引きされてからは――なかなかそういう機会に恵まれなくて……。

 でも私、どうしても大好きな温和(はるまさ)の写真が欲しくて、高1の頃、廊下に貼り出されていた修学旅行の写真、こっそりカナ(にい)の名前で温和(はるまさ)の写ってるの数枚、頼んじゃったことがあるの。

 それをカナ(にい)に見つかってしまって。

 鳥飼(とりかい)奏芽(かなめ)の名前で申し込んだんだから、カナ(にい)が頼んだ写真を手にすることは容易に分かっていたはずなのに、あの頃の私、本当浅はかだった。

 カナ(にい)にニヤニヤされながら「ほい、音芽(おとめ)。お前が注文してたハルの写真」って封筒を手渡されたとき、顔から火が出るかと思った。

 封筒の筆跡で、カナ(にい)には私が自分(あに)の名を(かた)って温和(はるまさ)の写真を買ったことは一目瞭然だったみたい。

 カナ(にい)にバレて、私の恋心、温和(はるまさ)に伝わらないわけないし、絶対面白半分で温和(はるまさ)に言われちゃうって思ったの。

 なのにカナ(にい)、「俺もそこまで野暮じゃねぇからハルには何も言ってないよ」と頭をクシャッと撫でてくれたから、お兄ちゃん!……って少し見直したのよ。――でもね、甘かった!

 あれからことあるごとにそれをネタに私、カナ(にい)に脅されている気がするっ。

(何年も告白できずにうじうじしている私が悪いんだけど)

 実際、私が温和(はるまさ)に気持ちを打ち明けてたら、カナ(にい)だっていつまでもこのネタで私を脅したりはしないはずなのに……。

 私の反応を見て、カナ(にい)が呆れたように「お前、まだ言えてないのな」とつぶやいたのも、悔しいけどもっともだと思う。
< 100 / 433 >

この作品をシェア

pagetop