オトメは温和に愛されたい
「あ、あの……温和(はるまさ)

 恐る恐る運転席の温和(はるまさ)に声をかけたら「なんだ?」って前方を見つめたまま返された。

「もしかして……小さい頃に私をお嫁さんにしてくれるって言ったの、覚えていたり……する?」

 恐る恐る聞いてみたら、「んな昔のこと覚えてるわけねぇだろ」って即答されて。

 私はホッとしたのと同時に、少し寂しくなった。

 ギュッと太腿の上で手を握りしめて(うつむ)いたら「ひょっとして……お前、ずっとそのつもりで俺に縛られてたってこと?」と問い返されて。

 私はドキッとしてしまう。

 温和(はるまさ)の事、ずっと好きなのは確かだけど……そんなおこがましいこと、思ってもみなかった。

 もちろん、子供の頃の私はその言葉を信じて温和(はるまさ)にくっ付いて回っていたけれど――少し大きくなってからは身の程をわきまえたの。

 私なんかが温和(はるまさ)のお嫁さんになんてなれるわけないって。

 そもそも温和(はるまさ)は私のこと、異性として意識なんてしてくれっこないって信じてたから。

 そんな小さな頃に言われた社交辞令を信じて、束の間でも夢見てたことがあるなんて言ったら、きっと気持ち悪いって思われちゃう。

 温和(はるまさ)にとっては記憶にも残っていないような口約束だもん。

「ばっ、バカなこと言わないでよっ。そんなこと、思ってたわけないじゃないっ」

 窓外に視線をやって慌ててそう言ったら、温和(はるまさ)が小さく舌打ちをした。

 ん? 温和(はるまさ)? もしかして……不機嫌? 何で?
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