オトメは温和に愛されたい
「あ、あの荷物……」

 温和(はるまさ)が持ってくれているカバンを受け取ろうと手を伸ばしたら、「どうせ隣の席ですし、鳥飼(とりかい)先生のデスクまで運んでおきますよ」とかわされてしまった。

 相変わらず、惚れ惚れするほどの変わり身で、二人きりの時とは私に対する言葉遣いまで変わっている温和(はるまさ)に、感心してしまう。

「鳥飼先生、ホントに大丈夫ですか? ……ぼ、僕に掴まりませんか?」

 温和(はるまさ)が私から離れたのを見て、鶴見(つるみ)先生がそう声をかけてくださったけれど、私はフルフルと首を横に振った。

「お気遣いありがとうございます。ここからは物伝いに歩けますので、どうか気になさらないで?」

 わざと距離を置くような丁寧な言い方をして会釈(えしゃく)をすると、自分の席までの間に並ぶ、机や棚などを頼りに歩いて、無事デスクにたどり着いた。

 その間中、私の後ろをオロオロとした様子で鶴見先生が付き従っていらして……何だか少し落ち着かなくて。

(気にしないでって言ったのに……)

 呆気なく私を置いて行ってしまった温和(はるまさ)と、私を放置できなくて金魚の糞状態になってしまった鶴見先生。
 どちらの男性のほうが、人として正解なんだろう?
 ふとそんなことを思って、温和(はるまさ)と鶴見先生を見るとはなしに見比べたら、温和(はるまさ)に睨まれて、慌てて視線を逸らす。
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