オトメは温和に愛されたい
 小さいころは、私のことも、すごく可愛がってくれた自慢の温和(お兄ちゃん)
 実の兄の奏芽(かなめ)は本当に意地悪だったから、私の中では温和(はるまさ)こそが真のお兄ちゃんだった。

 転んで泣いていたらすぐに駆けつけてくれたし、カナ(にい)に苛められてベソをかいたら、身を呈して実兄に立ち向かってくれた。

 頼もしくて優しい憧れの騎士(ナイト)

音芽(おとめ)は小さくてかわいいオレの大事ないもうとだから、オレが一生守ってやる。だからオレのそば、はなれるんじゃないぞ?」
 そう言って、いつも私の頭を撫でてくれた、初恋の人。

 それなのに――。

 妹でいるのは嫌だなって思い始めた小学四年生になった辺りから、温和(はるまさ)の態度が激変したのだ。

音芽(おとめ)金輪際(こんりんざい)俺に近づいてくるな。もし、守れないようなら俺、お前のこと徹底的にいじめるから」

 ある日突然そんな風に言われて、私は何が起こったのかさっぱり分からなかった。
 カナ(にい)に聞いても「鬱陶しくなったんじゃね?」って、全然納得いかない答えしかもらえないしっ!
 納得がいかないこと、聞く気にはなれなかったから。
 私はどんなに邪険にされても温和(はるまさ)に付きまとうのをやめなかった。
 結果、私は、どんなにいじめられても、中学、高校、大学……と、温和(はるまさ)の後を追いかけ続けた。ある意味意地になっていたんだと思う。

 そして、この春からは、念願叶ってとうとう就職先も温和(はるまさ)と同じところを勝ち取ったのだ。
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