オトメは温和に愛されたい
それでもやっぱりお隣さん
「あ、あの、こっち、うちじゃ、ない……よっ!?」

 実は私たち、就職してからも、うちの親からのたっての希望で、職場にほど近いところにあるアパートを隣り合わせで借りて住んでいる。

 女の子の一人暮らしはダメだ!と反対しまくりだった父が、実兄の奏芽(かなめ)か、隣の温和(はるまさ)くんと同じアパートを借りるなら譲歩すると言ってくれた。

 あの性格に似合わず医者なんかになれてしまったカナ(にい)は、面倒な妹のお守りなんて真平(まっぴら)ごめんだとばかりにサッサと家賃のお高めなデザイナーズマンションに行っちゃうし……そんなところに私、入れるわけなくて。

 カナ(にい)と同居なんて論外だよー!と弱り果てていたら、母が温和(はるまさ)くんの住んでるアパート、隣が空き室なんだって、と教えてくれた。

 情報源は温和(はるまさ)のところのお母さん(おばさん)らしいけど、実際そこへ引っ越したら絶対怒られると覚悟していたのに、案外移住(そこ)に関してはそれほど温和(はるまさ)から物言いがつくことはなくて拍子抜けしたのを覚えている。

 それがこの春。今から二ヶ月ちょっと前の話。

 実家のマンションと同じく、部屋の入り口ドアに向かって立ったとき、左隣になるのが温和(はるまさ)の部屋。

 住んでいるアパートは二階建てで、ワンフロアに二世帯ずつが入れるようになっていて、二階部分を私と温和(はるまさ)が借りている。

 一階には、私の下に同世代ぐらいの若い男性が一人、温和(はるまさ)の下に小さな赤ちゃん連れのご夫婦が暮らしている。

 三LDKの広い間取りは、田舎だから実現できるのかな?という格安の家賃で。

 大通りからは少し外れているけれど、それほど奥まってもいないので、そこそこに利便性は高いし、コンビニまで徒歩十分圏内なのもありがたいところ。

 そんなだから、薄暗くなりつつあるこんな時間に、ふと思い立って買い物に出ちゃったりしたわけなんだけど……。

 まさか温和(はるまさ)にぶつかるとは……。
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