逆プロポーズした恋の顛末


もう一度、そういう雰囲気になるのは無理だったが、尽は諦めがつかなかったらしい。
いつものように、幸生を挟んで横たわろうとしたわたしを捕獲して、抱え込んだ。


「川の字じゃなくてもいいだろ?」

「尽! 幸生が見たら、不思議がるでしょ?」

「律の寝相が悪かったせいだと言えばいい」

「それは、尽でしょ! ちょっと、どこ触ってるのよ!」

「触るくらい、いいだろ」

「ダメ」

「ダメだと言われると、余計にヤリたくなる」

「尽!」


渋々、尽はわたしの胸に這わせた手をお腹まで下げると、ゆっくり撫でる。
その動作に性的なものは感じられず、労わるような優しさと温もりが心地よい。


「なあ、律。幸生を妊娠してるとき、どうだった? つわりは酷かったのか?」

「食べ物の好みはちょっと変わったけれど、何も食べられないってことはなかったわ」

「自然分娩だったんだよな?」

「そうよ。所長と山岡さんのアドバイスのおかげで、体重もコントロールできていたし、健康的な妊婦だったわ。出産も……わたしにしてみたら、陣痛が長く感じたけれど、初産にしては分娩に至るまでにかかった時間が短いって言われたから、軽い方だったんじゃない?」

「軽いってことはないだろ」

「でも、丸一日陣痛があったわけじゃなかったし」

「……生まれたとき、幸生はどんな風だった?」

「思っていた以上に小さくて……でも、わたしにとってすごく大きな存在だと感じた」

「大きな存在?」

「無条件で、この子のためなら、何だってできる。そう思った」


もしも尽が生まれたばかりの幸生に会っていたら、同じように強い衝動をきっと感じたはず。
二度とは訪れないその機会を尽から奪ってしまった罪悪感が、胸いっぱいに広がる。


「……ごめんね、尽」

「何がだ?」

「幸生が生まれる瞬間に、立ち会いたかったでしょ?」

「……そうだな。立ち会えなかったのは、残念だ。でも、二度と体験できないわけじゃないだろ」

「え?」

(それは、つまりそういうこと……よね? 同意した覚えはないんだけど……)


いまさら、あからさまな子作り宣言に恥ずかしがるような年でもないが、顔が熱い。


「……とりあえず、幸生には話をつけておかないとな」


まさか医師である尽が、三歳児相手にとんでもないことを言ったりはしないと思うが、一抹の不安が過る。


「……何をするつもり?」


恐る恐る問い返すと、わたしを背後から抱きしめた尽はひと言。


「男同士の話だ」


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