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後ろ髪を引かれる思いで夕雨子さん宅を出て、五分としないうちに幸生は寝てしまった。
バックミラー越しにその様子を確かめた午来弁護士は、ふっと笑みを漏らす。


「幸生くん、ぐっすりですね」

「昨日、一昨日と水族館に遊園地、初体験にはしゃいでいたから、さすがに疲れているんだと思います」

「今日は、急なお願いにもかかわらず、夕雨子さんと会っていただき、ありがとうございました」

「こちらこそ……貴重な機会を与えていただいて、感謝しています」

「依頼をこなしただけです」

「だけってことはないでしょう? こうして送り迎えをしてくれて、幸生やわたしの緊張を解してくれて……とても気遣っていただきました」

「尽への罪滅ぼし、ですよ。アイツが幸せになれる機会を潰しておきながら、自分は結婚して子どももいて、幸せな家庭を築いている。そのことが、ずっと後ろめたくて、申し訳なかった」

「仕事なのだから、負い目に感じる必要はないと思います。第一、依頼を断ることもできたはずなのに、わざわざ憎まれ役を引き受けたのは……尽と夕雨子さんの関係を心配したからでは? 夕雨子さんとは、かなり親しい間柄なんでしょう? ただの依頼人と弁護士という関係には見えませんでした」


夕雨子さんが彼を信頼していること、彼が夕雨子さんのことを心配していることは、短い遣り取りでも十分感じられた。


「伊縫さんは、相変わらず場の雰囲気や相手の気持ちを察し、心の内を読むことに長けているようだ」

「それが仕事でしたから」


洒落た会話ができなくても、いまひとつ垢抜けていなくても、客を有頂天にさせられなくとも、ホステスを辞めろとは言われない。
けれど、客に居心地の悪い思いをさせるのは、完全にNG。明日から来なくていいと言われても、文句は言えない。


「あなたに隠し事はできないな……」