逆プロポーズした恋の顛末


夕雨子さんとの出会いと別れ、尽の縁談相手との遭遇。
昨日は、激しく感情が揺さぶられた一日だった。

色々と考えることがありすぎて、眠れないかもしれない――なんて思っていたけれど、幸生に付き合って魚の図鑑を眺めているうちに、いつの間にか寝てしまっていた。

子どもは、母親のぬくもりに安心して眠ると言うけれど、逆ではないかと思う。
母親が、腕に抱いた子どものぬくもりで安心するから、子どもも安心して眠れる――そんな気がする。

ざわつく胸も、煮詰まってしまいそうな思考も、幸生の無邪気で執拗な問いに答え、小さな体の柔らかな温もりを感じていると、和らぎ、解れ、きっと大丈夫だと思える。


(とはいえ、午来弁護士にカッコよく啖呵は切ってみせたものの、具体的にどうするか、まったく考えられなかったわ)


尽が立見総合病院の跡取りとしての立場を優先し、やっぱり彼女――森宮さんとの結婚を望むと言うならば、わたしにそれを止める権利はない。尽の人生は、尽が決めるものだ。

でも、尽が望んでいないのに、別れを選ぶことはしたくなかった。

わたしも、尽も、わたしたちを取り巻く環境も、四年前とはちがう。
だったら、四年前とはちがう選択ができるはずだ。

幸生がいれば、わたしは幸せ。
けれど、尽がいてくれたら、もっと幸せ。
尽も同じように感じてくれているのだとしたら、簡単にその幸せを手放していいはずがない。


(だから、まずは尽と話し合わなくちゃね……)


どんな家族になりたいのか。どんな関係のパートナーになりたいのか。
それは、誰かほかのひととではなく、わたしたち二人で考え、話し合い、選択し、幸生も一緒に共有していく未来だ。


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