逆プロポーズした恋の顛末


再びキスされた途端、絶対にやめないでほしいと思ってしまった。

いくら見た目が好みだとは言え、名のり合ってすらいない、初対面の相手にこれほど激しい欲望を抱いたのは、初めてだ。

しかも、触れる指、あらゆる場所に押し付けられる唇、熱い吐息、肌のぬくもり、香り――すべてがしっくり馴染み、違和感がない。

荒々しくも情熱的に欲望をぶつけられては、年上の余裕なんて維持できなかった。

リスクを冒さずにいられる分だけお互いの欲を満たした後、(くすぶ)る熱を散らすように、緩慢な動きでキスをする彼がようやく訊ねた。


「……名前は?」

「人に名前を訊くときは、自分から名乗るべきでしょ」


軽い舌打ちの後、耳元で掠れた声が囁く。


立見 尽(たつみ じん)


お返しに、腕を伸ばしてその頭を引き寄せて、囁き返す。


伊縫 律(いぬい りつ)

「律」


名前を呼ばれただけで、心の奥の方にある、ものすごく柔らかくて、脆くて、とても大切な何かが震え出し、泣きそうになった。


それが、わたしと彼の始まりだった。



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