逆プロポーズした恋の顛末

ホステスとして、いろんな人間を見て、いろんな経験をしてきた律は、実年齢よりずっと大人だ。
衝動的に何かをすることも、感情のままに振る舞うことも、ない。

唯一の例外は、俺たちが出会った夜くらいだろう。

行きつけのバーで偶然出くわした律は、祖母を亡くしたばかりで、あきらかに落ち込んでいた。
慰めてやりたいと思ったが、からかい半分にプロポーズされ、頬にキスなんていう子ども扱いまでされ、心底ムカついた。

なのに、気がつけば店を飛び出し、彼女を追いかけていた。

追いかけて、道端でキスをして、部屋に押しかけて、そのまま押し倒した。

相手に自分のテリトリーに入られるのも、自分が相手のテリトリーに入るのも、NG。
後腐れのない関係を貫くために、女の家に転がり込むことも、自分の家に連れ込むこともしないと決めていたのに、だ。

挙げ句の果てには、部屋の前で待ち伏せる……なんていう、ストーカーまがいのことまでしてしまった。

そんな、らしくない行動に一番戸惑っていたのは、自分自身だ。

たれ目がちで、笑うと途端に幼く見える律の顔立ちは、好みではない。
壊してしまいそうで、抱くたびに気遣わずにはいられなくなる華奢な身体も、だ。
身長に見合うだけの重量があるので、手加減せずに抱ける肉付きのいいタイプが好みだった。

それなのに、腕に抱いた感触は、これまで抱いたどの女よりもしっくり来るし、何度でも抱きたくなる。

結婚したい、なんて考えたこともなかったが、明日、明後日、一週間後、一年後、五年後、十年後……もっと先まで。

一緒にいる未来を思い描くのは、難しくなかった。

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