逆プロポーズした恋の顛末

まさか話を振られるとは思っていなかったので、びっくりして咄嗟に返事ができなかった。


「え、あの……」

「女心は、女同士の方がわかるだろう?」

「そうですけれど、わたしが夕雨子さんとお会いしたのはほんの二時間ほどです。吉川さんの方が、よくご存じだと思います」

「鬼軍曹が教えてくれるとは思えん」

(鬼軍曹……そのあだ名を尽に教えたのは、もしかして所長!?)


意外なルートに驚きつつも、あくまでも自分が感じたことだと前置きして、思ったままを口にした。


「夕雨子さんは、後悔しても取り戻せないものがあることは、よくわかっていらっしゃるようでした。ご自分のいまの状況も、自業自得だと。ただ……過去の過ちを謝罪することで、傷つけてしまった相手の心が少しでも癒されるなら、そうしたいと思っている。わたしと幸生に会いたいと言ったのも、わたしが尽と家族になる決断を迷わずできるようにと、そう考えてのことだったと思います」

「…………」

「相手のことを考えて、考え過ぎて、行き過ぎた行動をしてしまう。そういう不器用な人なんだと思いました」

「……かもしれんな」

「面会を断っているのも、いまのご自分の状態を目にした人が、辛い思いをするだろうと考えたからかもしれません」

「……かもしれん」

「誰にも会いたくないと言ったのは、本当は会いたい人がいるけれど、いまの自分が会いたいと口にしてしまったら、会いたくなくても会わなくてはいけないと思うだろう。そう考えたからかもしれません」

「…………」


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