逆プロポーズした恋の顛末

まだ夢の中にいる二人を起こしてしまわないよう、そっと寝室を出た。

まっすぐキッチンへ向かい、お米を研いで炊飯器にセット。
それから顔を洗い、軽くメイクを施して、再びキッチンへ戻って朝食の準備を進める。

幸生の好きな甘い卵焼き、ほうれん草のおひたし、昨夜の残りのきんぴらごぼう。
ダシのいい香りが部屋に漂い、ほどなくしてお味噌汁ができあがったところで、尽と幸生が起きてきた。


「ママ、おはよ!」

「おはよう、幸生! ……おはよう? 尽」

「……はよ」


朝からぱっちり目が覚めている幸生とは対照的に、尽はあくびを噛み殺している。
昨夜は、勤務終了間際にバタバタしたとかで、帰宅したのは日付が変わる直前だった。

大きな手で足にしがみついている幸生の頭をくしゃりと撫で、ダイニングテーブルの上に用意した海苔を見て、ぼそっと呟く。


「ツナマヨがいい」


幸生も、すかさず叫ぶ。


「ぼくは、昆布がいい!」

「かしこまりました。もうすぐ出来上がるから、二人ともさっさと顔を洗って来て?」

「はーい!」


素直に返事をした幸生は、尽の足にしがみついたまま、笑いながら運ばれていく。
朝から楽しそうだ。


(それにしても、ツナマヨと昆布……全然好みがちがうわね)


外見はよく似ている二人だが、食習慣や日常の何気ない生活習慣など、過ごしてきた環境で左右されるものは、似ていない。

それも、これから一緒に暮らすことで、少しずつ似て来るのだろう。
そうして、わたしたち三人なりの「当たり前」をたくさん共有して、積み重ね、家族になっていくのだと思う。


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