逆プロポーズした恋の顛末


「え! もうこんな時間っ!?」


慌てて壁の時計を見れば、もう七時半だ。


「おはよう、ジョージ。あの、ちょっとだけ待ってくれる?」

『おはよう、アイ……じゃなく、律。しかたないわね。一分一秒たりとも無駄にしたくないけれど、ママの朝は忙しいものね。車で待ってるわ』

「ごめん! すぐに行く!」


片付けも、幸生のことも、あとはすべて尽におまかせして、慌てて歯みがきをし、リップクリームを塗り直す。
お財布やらスマホやら、必要と思われるものを鞄へ放り込み、十分後には何とかジョージの車に乗り込んだ。

尽と一緒にエントランスまで見送ってくれた幸生は、ニコニコ笑いながら手を振っている。


「ママ、いってらっしゃい!」

「幸生、パパの言うことよく聞くのよ? それから、……」


くどくどとお小言を並べてしまいそうになるわたしを尽が遮った。


「律。時間がないんだろ? さっさと行けよ」

「…………」

(そうだけど! そうだけど、でも! ママは心配なのよ!)


心の中で反論するわたしを押しのけて、ジョージが尽と幸生に手を振る。


「それじゃ、ママをお預かりするわねー! 朝からイケメンを二人も拝めて、眼福!」

「よろしくお願いします。律、」


シゲオの投げキッスに苦笑いを返した尽は、不意打ちでとてつもないプレッシャーを食らわせた。


「世界一キレイな花嫁になって登場するのを楽しみにしてる」

(じ、尽ってば、わたしが昨夜、焼け石に水と知りながら、ありとあらゆるパックを試していたこと、知ってる……?)


顔を引きつらせるわたしとは対照的に、ジョージが自信満々に応えた。


「任せてちょうだい! 惚れ直して、ひれ伏したくなるくらいの美女にして、お返しするわ!」

(ジョージ! なんでハードル上げるのよー!)

「ますます、楽しみだな? 幸生」

「うん!」


幸生の期待のまなざしに何とか笑みを繕って、力なく呟いた。


「いってきまーす……」


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