逆プロポーズした恋の顛末
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その後も、尽は連絡もせずにやって来て、ドアの外に座り込んで待つのをやめなかった。
将来有望な医者の卵が、不審者扱いされて警察に通報されるなんて事態は、いただけない。
生まれながらに裕福な彼が、しがないホステスの財産を持ち逃げするはずもないので、三度目で合鍵を渡した。
合鍵を渡してからも、相変わらず事前の連絡はなく、フラリとやって来ては、一晩中ベッドでわたしを拘束することもあれば、ほんの数時間だけ過ごして、病院へ戻ることもあった。
こちらの仕事が休みの昼間に来た時は、一緒に映画を鑑賞し、わたしが作った手抜き料理を食べることもあった。
時には、コンビニのブリトーを全種類買って来ることもあった。
高価な天然石のついたアクセサリーやブランドもののバッグ、小物。
そういった定番の「お土産(貢ぎ物)」の十分の一、百分の一以下の値段であっても、ブリトーを貰う方が嬉しかった。
尽のことは、まちがいなく、これまで関係のあったどの男性よりも好きだった。
しかし、年の差に加え、ホステスと未来のエリート医師との間には大きな隔たりがある。
恋人ともセフレとも言えない曖昧な関係が、いいところだ。結婚なんて、あり得ない。
いつかは終わる関係だと十分心得ていた。
だから、
その時が来たら笑って別れ、いつかいい思い出になる――はずだった。
まさか、妊娠して、シングルマザーになるなんて、思ってもみなかった。