そろそろ喰ってもいい頃だよな?〜出会ったばかりの人に嫁ぐとか有り得ません! 謹んでお断り申し上げます!〜
「ああ、ありがとう」

 御神本(みきもと)さんはそんなのには慣れっこなのか、さして気にした風もなくお礼を言って。
 八千代さんもその声を受けるとすぐに、「では」とそのまま薄く開かれていた扉を閉ざして行ってしまう。

 その一連の様子に、私はひとり慌てた。

「あ、あのっ」
 まろぶように数歩前に出て扉を大きく開けると、廊下を歩み去っていく八千代さんの後ろ姿に声をかけて呼び止める。

「はい?」
 怪訝そうな顔でこちらを見つめてくる八千代さんへ、
「和室っ、散らかしたままにしてすみませんでした! 今度からちゃんと片しますので、お盆とかそのまま置いといて頂けたら助かります。それとっ。もしご迷惑でなければ……明日の朝ごはんの支度(したく)、私にも手伝わせてくださいっ!」

 たけのこの鶏そぼろあんかけ煮も朝食に加えたいのですっ。

 なんていう本音はとりあえず押し殺して、要点だけを一気にまくし立てるように言ったら、目をまん丸にされて驚かれてしまった。

「わ、()()()にそのようなことっ。恐れ多くてできませんっ」

 〝若奥様〟と言う呼称とともに、さっと視線をかわすようにうつむかれて。
 こちらを見ようともしないままにそんなことを言われて線引きされて、私は悲しくなってしまう。

 でも、だからってすごすごと引き下がるような奥床しい女の子じゃないの、私。

 たけのこの鶏そぼろ煮もかかってるし!

 すぐさま八千代さんのそばまで歩み寄ると、顔を伏せたままの彼女の手をギュッと握った。
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