そろそろ喰ってもいい頃だよな?〜出会ったばかりの人に嫁ぐとか有り得ません! 謹んでお断り申し上げます!〜
 仕事着問題に悩む頭で、さらに不毛な思考は続く。
 だって私の前には、服装よりも何よりもお風呂問題が横たわっているんだものっ。

 思い起こしてみれば、さっきこの人、私に「背中を流してもらおうか?」って言い方しなかったよね?
 絶対「お風呂行こうか?」だった!
 もしかして「お風呂行こうか?」って言い回しは、世間的には「背中を流してくれ」と同義だったりする?
 もしそうだとしたら、勝手に混浴のお誘いだと勘違いした私ってば、めっちゃ恥ずかしくない!?

 考えがそこに至って、ぶわりと頬が熱くなったと同時――。

「おや? 花々里(かがり)はもしかして別のことを考えたのかな? 案外エッチだね」

 まるで思考を見透かされたみたいにニヤリとされて、私は思わず誤魔化すように言い募る。

「そっ、そんなことないですっ! ちゃんと背中のことだって分かってましたから! しっ、仕方ないですね。八千代さんもお休みになられたみたいですし、こ、今夜は私がっ、お背中を流させていただきますっ!」

「それは助かる」

 そう言って微笑んだ彼が、「では行こうか」と私の背中をそっと押してきた際、「ホントちょろい」とつぶやいたのを聞いた気がしたけれど、気付いたところで後の祭り。

 私はまんまと罠にハマったのだ。
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