Let's鬼退治!
第7章

第1話

 日を改めて、もう一度校内を見て回る。

鬼退治サークルの活動場所としてふさわしいのは、どう考えても演武場以外ありえない。

「やっぱここか」

「だよね」

 体育館横に立つ円形に近い建物。

正面には昔書道の先生が書いたという看板が掲げられる。

「どうする?」

「聞かれても」

 あたしの隣には、いっちーが立ってくれている。

方法はこれしか思いつかない。

チア部とバレエ部が仲悪いとか、考えてみればうちらとは何の関係もないし。

体育館半分くらいの広さの、さほど大きくはない演武場だ。

「行くか」

「だね」

 あたしは演武場正面の扉を突き破った。

「たのもう!」

 入り込んだそこには、バレエ部とチア部の部員ほぼ全員が集合していた。

両者対面しギリギリとにらみ合う。

「うっ……」

 その緊迫した雰囲気に、あたしといっちーは固まった。

「あんたたちが最初にこんなことしたんでしょう!」

「どうして自分たちのせいにできるの?」

「話し合って決めたことくらい、ちゃんと守ってほしいんだけど!」

 今にも暴動に発展しそうな勢いだ。

「あ、あの……。スミマセン……」

「何の用?」

 チアの2年生だ。

「もも。もしかしてあんた、またここを借りたいって言ってくるんじゃないでしょうね」

 バレエ部の方からも声がかかる。

「悪いんだけど、今そんなことに構ってられる余裕ないから」

「あ……えっと……」

 その最悪過ぎる雰囲気に、あたしといっちーは完全に怖じ気づいた。

「し、失礼しましたぁ!」

 即座に退散。扉が閉まったとたん、その向こうから罵詈雑言の応酬が響き渡る。

これは予想以上に酷い。

困った。

「話合いどころじゃないじゃん」

 扉を見ながら、いっちーもため息をつく。

「誰かチアかバレエ部に知り合いいない? どうなっているのか、もっと正確な状況を把握しないと……」

 校庭からこちらに走ってくる金髪坊主頭が見えた。

階段にさしかかったところで、あたしたちを見上げる。

「何?」

「さーちゃん、チア部だっけ?」

「チアの部長」

 そう言って、あたしたちがさっき閉め出されたばかりの扉に手をかける。

「あぁ……」

 あたしといっちーから絶望のため息が漏れた。

そんなあたしたちをさーちゃんはにらみつける。

「何よ、見学? 鬼退治はどうした」

 フンと鼻息を残して、乱闘騒ぎの続く渦中へと消えた。

とたんに中が静まり返る。

「あー」

 状況は非常によろしくない。

「どうする?」

「今日のところは一旦引こう」

「いいの?」

「作戦立てた方がいいよ。このまま突っ込んでも、いいことないだろうし」

「……。分かった」

 それからいつもの校舎裏に戻って、2人で剣の練習をする。

完全下校を知らせるチャイムが鳴り、あたしたちは外へ出た。

 快速の止まらない小さな駅前広場でも、夕方の帰宅ラッシュ帯にはそれなりの人手がある。

ビルの谷間に傾いた太陽は、徐々に赤みを帯び始めた。

いっちーはため息をつく。

「で、どうするよ、もも」

「向こうの事情がどうなってんのかは分かんないけど、それとこれとは話が別だから。あたしたちはあたしたちのことをやんないと」

 いっちーと今後の方針について話し合う。

まずは最終目標をはっきりさせること。

その実現のためには、手段を選ばないこと。

たとえどんな行動を互いにとったとしても、それは全て鬼退治サークル設立のためだと信じること。

「あんたたち、なにやってんの?」

 さーちゃんの声がして、振り返る。

「いま帰り?」

 彼女はためいきをついた。

「こんなところで制服に木刀ぶら下げてた厳つい女子高生同士が、腕組みしながらなにを真剣に話し合ってんのよ」

 あたしは覚悟を決める。

「ねぇ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
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