Let's鬼退治!

第5話

「うまくいくと思うの?」

「そんなの、やってみないと分かんない!」

 水平に掲げたこん棒の先に、二人の姿が並ぶ。

あたしはこんなところで諦めるわけにはいかない! 

踏み込む勢いで斬りかかる。

キジは体が柔らかく横移動が多い。

さーちゃんは高い筋力で上からのジャンプ攻撃とポンポンを繰り出す。

攻撃パターンが読めてきた。

あたしがキジを避けている間に、さーちゃんは飛び上がる。

それに気をとられればポンポンは襲い、態勢を立て直したキジがその隙に攻撃を仕掛ける。

あたしはボッコボコにされながらも、じっと反撃のチャンスを狙っていた。

いくら連携のとれた二人にだって、スキや油断は生じる。

二人の立ち位置が、微妙にずれた。

「そこだ!」

 渾身の一撃を繰り出す。

さーちゃんの上に振り下ろしたそれを、割り込んだキジの扇子が受け止めた。

一瞬の静寂。

肩での荒い呼吸が演武場に響いている。

もう動く力の残っていないあたしは、その場に崩れ落ちた。

そんなあたしを、さーちゃんとキジは見下ろす。

「ふん。しょうがないわね、譲ってあげるわよ」

「そうだね。やる気は見せてもらったし」

 二人はくるりと顔を合わせた。

「てゆーか、私たちやっぱり息ぴったりじゃない?」

「ホントそう思う! 私の相方は、やっぱりさーちゃんじゃないと無理みたい」

「私も!」

 両方の手の平を合わせ、互いの指を絡める。

「ね、キジ。やっぱりバレエ部とチア部、合体させない?」

「そうだよね。その方がより高みを目指していけると思う」

「やっぱり? キジならそう言ってくれると思った」

「当たり前じゃない。私たちの表現に対する情熱は、どこまでも自由なのよ!」

 演武場の扉が開く。

「さすがね、あなたたち!」

「それでこそよ!」

「バンテ先輩!」

「チアちゃん先輩!」

 そう呼ばれた二人は、さーちゃんとキジ、互いの手を取った。

「演武場が大変なことになってるっていうから、駆けつけてみれば……」

「あなたたち二人なら、きっと大丈夫だって信じてたわ」

「先輩!」

「もう仲直りしたんですか?」

「えぇ。手の届かない尊い推しも大切だけど、目の前にいるリアルな関係はもっと大切でしょ」

「いつまでもそんなことでいがみ合う私たちじゃないし」

 歓喜と賞賛の声が辺りを包む。

あたしは起き上がろうとして、痛みに崩れ落ちた。

演武場はすっかり幸せに包まれている。

「もも。お疲れさま」

 目の前に差し出された、いっちーの手をつかんだ。

彼女はこん棒とあたしを抱き上げる。

「行こう」

「うん」

 よかった。

さーちゃんとキジが仲直り出来て。

いっちーも笑ってくれたし。

あたしはその微笑みに安心する。

肩をかしてもらい、いっちーに引きずられるようにしながら立ち去る。

「もも!」

 さーちゃんの声だ。

「演武場、チア部の時間をあんたたちに譲る」

 あたしたちは振り返った。

「ありがとう。もものおかげで助かった」

「そうね。これからよろしくね」

 その横でキジも微笑む。

「うん!」

 入って来た時には、果てしなく気で重かった扉を、晴れやかな気持ちで後にする。

保健室に運び込まれたあたしに、いっちーは手当をしてくれた。

慣れた手つきで軟膏を塗り、絆創膏を貼ってくれる。

「もう。無茶ばっかりして。今度から私も戦うからね」

「うん。次は一緒に頼むわ」

 夕焼けの日差しに、ミルクティー色の茶色の髪が透けている。

しばらくして、演武場使用に関する合意書が生徒会に届けられた。
< 28 / 71 >

この作品をシェア

pagetop