Let's鬼退治!

第6話

 距離をとる。

間髪入れず踏み込んだあたしに、細木はこん棒で応戦する。

「誰がお前らなんかと鬼退治するか!」

 刀身と刀身がぶつかり合う。

交差するそれを挟んで、あたしと細木はギリギリとにらみ合った。

「俺はなぁ、この学校が共学化して、男子が入ってくることだけを生きがいに頑張ってんだよ」

「何だよそれ……」

「お前こそ俺の邪魔をするな。鬼退治サークルが存続するなら、お前にとっても悪い話しじゃないだろ」

 力で押し戻される。

あたしが後ろに引いたとたん、細木はやっぱりこん棒を投げ捨てパッと背を向けた。

「おぉ! よく見ればここにもお友達が!」

 金太郎と浦島に駆け寄り、勝手に手を取るとぶんぶんと握手でそれを振り回す。

「君も! 君も! 名前は?」

「おいっ! 勝負のじゃなすんな!」

「お前こそ俺の勝負の邪魔すんな!」

 細木の大声に、びっくりする。

コイツが今までにこんな大きな声を出したのを、聞いたことがない。

つーかこんな声出せたんだ。

細木は落ちていたこん棒をあたしに突きつけた。

「君たちはここで、サークル部員の勧誘を続けていなさい。僕は彼らを案内してくるから」

 細木は持っていたこん棒を横にすると、ぐいぐい押しつけてくる。

その異様な気迫に押されて、あたしはついそれを受け取ってしまった。

「じゃ。余計な問題起こすなよ」

 背を向けたとたん、突然の上機嫌に戻った細木は、桃たち三人を引き連れてどこかへ行ってしまった。

きっと転入案内のコーナーにでも行くんだろう。

「なんだあいつ!」

 あたしは最高にイライラしていた。

普段の練習とかには、全く興味ないクセに! 

校内で会っても目も合わさないクセに! 

そもそも細木の顔を見るのは、学祭の許可をもらいに行って以来だ。

「いっちー! あたしと模擬戦しよう!」

 彼女はすらりと腰のこん棒を抜いた。

あたしが打ちかかると、それに応じる。

いつも以上に熱が入った。

流暢な剣さばきに、結んだ彼女の長い髪がなびく。

ガツガツと腕に伝わる振動に、あたし自身がしびれていた。

何に対して腹が立つのか、どうしてこんなにイライラしているのか、そんなことを今だけは考えたくもない。

いっちーの繰り出す素早い剣さばきに、無心で合わせる。

繰り出される剣先を避け、また打ち付ける。

踏み込む動きに一切の無駄なんてない。

ぶつかっては離れ、離れてはまたぶつかり合う。

あたしはただただいっちーと打ち合っている。

一呼吸置いた時、ふいに拍手が沸き起こった。

いつの間にか辺りには人だかりが出来ていて、あたしたちを取り囲んでいた。

それに気づいて、急に恥ずかしくなる。

いっちーの顔も真っ赤だ。

「あ、ありがとうございました!」

 二人で一礼をしてから、あわててその場を逃げ出した。

「なんか突然で、びっくりしちゃった」

「私も」

 どこへ逃げ込もうか。

校舎内に駆け込んで、ようやく一息つく。

「なんか飲む?」

「う、うん。ももは?」

「あたしもなんか飲みたい」

 目の前の教室で屋台が出ていた、よく分からないミックスジュースを買う。

正義のイエローダイヤと愛のレッドルビーってなんだ? 

どうやら黄色系と赤系の市販のジュースをいくつかミックスしたものらしい。

「あ、知らない味だけど悪くないよ」

「うん。不味くはないね。むしろアレとアレを混ぜたらこんな感じになるんだって感じ」

 見慣れた校内を行き交う沢山の見知らぬ人たちの前で、あたしたちは色んなものがごちゃ混ぜになった不思議なジュースを流し込む。

ようやく落ち着いたところで、生徒会本部役員のはーちゃんとしーちゃんに出くわした。

「もも!」

「どうしたの? そんなに慌てて」

 はーとしーは慎重に辺りを見渡すと、小声でささやく。

「鬼が出たっぽい」

 マジな感じの様子に、空気が凍りつく。

「ホントに?」

 二人はうなずいた。
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