Let's鬼退治!

第4話

 視界に入ったその光景に、息を飲んだ。

舞い上がる砂埃と駆け出す悲鳴。

毛むくじゃらの足と太い腕、鱗で覆われたような体に、短い二本の角が生えている。

守られていたはずの校内に、その姿はあった。

3メートルはあるだろうその高さから腕を振るうと、天に向かって雄叫びを上げた。

「……鬼だ」

「行こう」

 教室を飛び出す。

非常ベルは鳴り響き、避難指示のアナウンスが流れる。

あたしは腰のこん棒を抜いた。

 飛び込んだ校庭の空気が震えている。

まとう瘴気で息が苦しい。

こん棒を握る手に、汗が滲んだ。

「どっから来たのよ。今すぐ出て行きなさい!」

 言葉なんて通じるはずもないのに、鬼はあたしを見てニヤリと笑った。

振り下ろされた腕に飛び退く。

鋭く尖った爪は空気を切り裂き、その風圧で倒されまいと、足を踏ん張っているだけでやっとだ。

「どこを狙う? 弱点とかあったっけ」

 そう言ったさーちゃんの方に、鬼の顔は向いた。

「そんなのはない!」

 背を向けた鬼に、いっちーはこん棒を振り下ろした。

それが背に打ち付けられる前に、鬼の手はこん棒をつかむ。

「危ない!」

 キジが踏み込んだ。

鬼の腕にこん棒を叩きつける。

振り返った鬼は、キジに拳を打ち落とした。

あたしはその腹に向かって思いっきりこん棒を打ち込む。

鬼の動きが止まった。

「もも、ナイス!」

 さーちゃんが高く飛び上がった。

鬼の肩に会心の一撃。

鬼の叫びが校庭にとどろく。

「気をつけて!」

 動きが変わった。

雄叫びと共に、瘴気が強く沸き立つ。

振り下ろす腕の動きが格段に速くなった。

うなり声は地面に響く。

その風圧だけで吹き飛ばされる。

握りしめた拳が、あたしの頭上に振り下ろされた。

「もも!」

 真横に構えたこん棒で、それを受け止めたのは堀川だった。

「あんたたち、本当にまともな訓練してた?」

 ギリギリと押しつけられるそれに、今にもこん棒は折れそうにしなる。

「小田先生考案の瑶林高校鬼退治部、必勝フォーメーションがあったでしょ」

 堀川の目は、あたしを見下ろした。

「まさか知らないの?」

 堀川が鬼を蹴飛ばす。

あたしは立ち上がった。

「ラッキーイチゴフォーメーション!」

 その声に、いっちーとさーちゃん、キジが動いた。

「つーか、なんでこんなクソダサい名前なんだよ」

 堀川はその菱形になった体系に、満足したように口の端を持ち上げる。

「あら、分かってるじゃない」

 そのこん棒を一振りする。

「小田っち、かわいいのが好きなんだよ」

 取り囲んだあたしたちを、鬼は見回している。

背を向けた瞬間、堀川は叩きつけた。

「それはあたしの役!」

「あはは、じゃあ私より先に動きなさい!」

 ラッキーイチゴフォーメーションとは、イチゴのヘタ部分に当たる人間をリーダーとして動く。

菱形でヘタでイチゴとか、そんな細かいことは気にしない。

「あたしと先生はチェリーで。3人はあたしに合わせてイチゴ続行!」

 堀川と鬼の動きに合わせて、交互に打ち込む。

チェリーとは二人組のコンビネーションのこと。

イチゴの菱形は鬼を中央にして、近距離からの攻撃と、それをサポートする後衛とに分かれた攻撃パターン。

鬼退治の基本は、仕留めることより自分たちが傷つかず撃退させること。

二人組で巡回するから、ペアでの攻撃が基本だ。

 鬼はキジを振り返った。

振り下ろされた拳は地面にめり込む。

その衝撃に、キジの態勢が崩れた。

「キジ!」

 鬼の足が踏みつける。

飛び込んだのは金太郎だった。

滑り込んだ金太郎は、彼女の持っていたこん棒を掲げる。

それはミシッと嫌な音を立てた。

「離れろ!」

 さーちゃんが鬼の足を下から蹴り上げる。

彼女はこん棒を投げ捨てた。

「ゴメンね。こん棒使い慣れてないから。直接行く」

「それは無謀だ」

 転がったこん棒を拾い上げたのは、浦島だ。

「鬼に直接触れるのは危険だ。お前は平気でも俺が耐えられない」

「刀はやっぱ返してきちゃったの?」

 桃はいっちーの隣で、自分のこん棒を構える。

「うん。まだこっちは持っていてよかった」

「タイミング悪すぎ」
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