あなたに、キスのその先を。
歓迎会
 金曜日。
 定時に仕事を切り上げた公園緑地係の四人で、市役所から徒歩圏内の居酒屋へ行くことになった。
 私はいつも職場までバスで行っているので、最終便までにお(いとま)すればいいかしら?と思う。


 どうやら予約したお店は私以外のメンバーにとっては馴染(なじ)みらしく、着くなりここはレバーがとにかく絶品だよと口々にお勧めされた。

 可愛らしい顔を前から見たいから!などと言われて、普段外回りをなさっている(はやし)さんと森重(もりしげ)さんがテーブルを挟んだ向かい側に座られる。
 それで、私は必然的に塚田(つかだ)さんの隣になってしまった。

 林さんと森重さんからの、「可愛らしい顔」というおべっかも、「塚田さんの隣」という衝撃にかき消されて何も感じなくなってしまうくらい、私の心は揺さぶられていた。 

(向かい側に座って、塚田さんのお顔を見るたびにドキドキしてしまうよりはきっと何倍もマシなはず!……なのです)

 必死にそう思おうとするものの、そんなに広くないスペースのため、隣と肩が触れそうな距離に、どうしても意識してしまう。

 あまりにも近くに居すぎて、塚田さんが身に付けたシプレ系の香水の香りがほのかに鼻をかすめて、それがまた余計に心をざわつかせた。

 そわそわと佇んだままの私に、塚田さんが「どうぞ」と自分の隣の椅子を引いてくださる。
 塚田さんの眼鏡越しの優しい目と一瞬視線がかち合って、途端頬がぶわり、と熱を持つ。

「あ、りがとう、ございます」

 慌ててうつむきがちに何とかそれだけを言うと、私は彼の隣に身体をギュッと縮こめて座る。
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