腹黒梨園の御曹司は契約結婚の妻を溺愛したい
お母さんの勢いは、さらに加速するばかりだった。
「殊に日向子は、今日まで父親のことを知りません。文句を言いたいのはこっちですわ」
「左右之助とすっぱ抜かれたのはお嬢さん本人の責任もあるだろう」
「大人の男女が合意の上でホテルに泊まって、なんの責任がありますの?」
お母さん、怒ってるんだ。
「本人の預かり知らぬところで梨園の出自を絡めて面白おかしく報道されるのも、こっちの責任と違います。桜左衛門の旦那との約束を守って、日向子は梨園と関わりなく育ててきたんや」
私に対してじゃなく、梨園が絡んだこの理不尽な状況に猛烈に怒ってる。

「芙蓉さんにも、日向子さんにも非はありません。全て僕の軽率な行動が原因です。誠に申し訳ございません」
左右之助さんが深々と頭を下げた。
「私だって、別に左右之助の女性関係なんて興味ないけどね」
鴛桜はバサっと週刊誌の記事を目の前に無造作に広げた。
「日向子さんが父の婚外子だと出ているのはどういうわけなのか、こっちが聞きたいよ!どっからそんな情報が漏れるんだい!?」
「先代の桜左衛門は、病死する前に竹馬の友であった私の祖父、左右十郎に伝えたと聞いています。僕は左右十郎から聞きました」

先代の志村桜左衛門が病気で亡くなるとき、
『実は娘がもう一人いる。何かあった時は頼む』
左右十郎にそう言い残したのだそうだ。隠し子がいるなんて、同じ一門には言えなかったのかもしれない。二人は幼い頃から一緒に修行を重ねた幼馴染だったらしい。今度は左右十郎本人が今際の際に、桜左衛門からの頼みを孫に伝えたってわけか。

「左右十郎師匠の口が硬いのは、私だって知ってるよ」
「ありがとうございます」
「だからこそ、どっから漏れたのか知りたいってんだよ!」
さすが、歌舞伎役者の声はよく通る。鴛桜が放った声に、誰一人言葉を返せるはずがなかった。そりゃ、どこからこんな情報が漏れたのかなんて、それこそこっちが知りたいよ。
「こんなスキャンダルが公になったからには、左右之助と日向子さんに結婚してもらうよ」
「結婚?」
思考がフリーズする。

「け、結婚って、あの結婚ですか?」
私が何か言い出すとは思わなかったのか、鴛桜は虚をつかれたようにこっちを見た。
「結婚に種類があんのかい」
「……」
驚きすぎると、何か言葉を発しようと思っても口をパクパクさせるしかないのだということを私はこの時、初めて知った。
「ええええええ〜、結婚!!??」
「なんだい、そこまでまだ話してなかったのかい」
結婚って、私と……左右之助さんが?どうしてスキャンダルが公になると、私が結婚しなきゃいけないの???

声を上げたまま固まる私を見て、鴛桜は少し気の毒に思ったのかもしれない。
ソファに深々と体を沈めると、ため息を一つ吐き出した。それまで婚外子だスキャンダルだエキサイトしていたのがトーンダウンして、説明し始める。
< 21 / 69 >

この作品をシェア

pagetop