政略結婚かと思ったら溺愛婚でした。
 なぜかは分からないけれど、浅緋がぴったりと動きを止めてしまったので、どうしたんだろうと思ったら、浅緋は泣きそうな顔で槙野を見ていた。

「……っ! おい! 泣くなよ! あんたを泣かせたらマジで片倉に怒られるんだからな!」

 槙野は自分の髪をくしゃっとかきあげる。

「やってみたらいろいろある。失敗したり、さ。でもそれはあんたの経験であんたのものだよ。困ったら、今みたいに困ってるって周りにいってみろ。きっと周りは助けてくれる。それに対してあんたがすることは、周りに感謝してその気持ちを忘れないことだよ。」

「槙野さんは、そうしてきたんですか?」

「俺も、片倉も、園村さんも、な。園村さんもそういうところはすごくきちんとしている人だったよ。きっと、それはあんたの中に根付いているはずだよ」

 浅緋は槙野に向き直って、頭を下げた。
「槙野さん、ありがとうございます。私、頑張ってみます」
「おう。頑張れ」

 槙野と別れた浅緋はオフィスの窓から外に目をやる。

 ここはこんなに明るかった?
 目に入る光は眩しくて、空は青く澄み渡っているような気がした。

 片倉さんに伝えたい。
 綺麗な青空をあなたと見たい、いろんなことを一緒にしたいんだって……。

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