政略結婚かと思ったら溺愛婚でした。
12.特別な存在
「浅緋さん。僕はあなたのお願いならなんでも聞きます。けれど、その前に一つお伝えしなくてはいけない」
「なんでしょう?」

 急に、改まってそんなことを言われたので、不安になった浅緋は自分の腰に手を回している片倉の顔を見上げた。
 目が合うと、片倉はふわりと優しく微笑んでくれて、浅緋は安心する。

「少しだけ話したいんですけど、寒くない?」
 そう言えば、外なのだった。

 まだ春と呼ぶには早い季節に普通なら少し肌寒いはずなのに、片倉がしっかりと抱きしめてくれているからそれが温かい。
 とても守られているのだ、とよく分かった。

「寒くないです」
 そう、と言った片倉は一度浅緋をそっと離して、自分のコートのボタンを外していく。

 どうするんだろうと浅緋が見ていたら、きゅっとコートの中に包んでくれた。
「ここで、もう少しだけ話したいんです」

 そう言って自分のコートで浅緋を包みなおした片倉は桜の木を見上げた。
 なにか片倉にも想いがあるのだろうかと浅緋は思う。

 先程まで、しっかりボタンを締めていたコートの中は、温かくて、それに片倉が使っているパフュームの香りまでして浅緋はくらくらしそうだ。
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