僕惚れ③『家族が増えました』
*許せない
 葵咲(きさき)が風呂から上がるとすぐ、理人(りひと)は葵咲に飲み物を勧めた。

「炭酸水、飲む?」

 聞くと、湯上りで火照(ほて)った身体が欲したのか、葵咲がこくん、とうなずいた。

 理人はグラスに氷を入れると、冷蔵庫から取り出した炭酸水を注ぐ。

 葵咲はすぐにキッチンに入ってきて理人からグラスを受け取ると、美味しそうに中身を飲み干した。

 お風呂上がりの上気した頬と、洗い上がったばかりの身体から立ち昇るシャンプーと石鹸の香り、極め付けは飲み物を飲んで湿り気を帯びた唇で。

 理人はごくん、と生唾を飲み込んだ。

「理人?」
 葵咲がグラスを流しに置きながら彼の名前を呼んできて、その声に弾かれたように理人は彼女の唇から視線を外した。

「もしかして……またエッチなこと、考えてた?」

 眉根を寄せて見透かされたようにそう聞かれて、理人は苦笑する。

「葵咲を前に欲情しないとか、僕じゃないだろ?」

 開き直って言って、葵咲の華奢(きゃしゃ)な腰に腕を回して彼女を引き寄せると、即座に唇を(ふさ)ぐ。

 よく冷えた炭酸水を飲み干したばかりの葵咲の口中は冷たくて、でも抱きしめた身体はいつもより体温が高めで。

 布越しでも葵咲の熱が切ないほどハッキリと伝わってきて、理人は歯止めがきかなくなりそうだった。
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