「……周寧くん」
静まり返ったリビングで私は彼の名前を呼ぶ。
「優海さんっ、あの……」
周寧くんはあんなことがあったから当たり前だけど、何を言ったらいいかオドオドしている。
「周寧くん。本当にもう一度確認なんだけど、私のこと好きでいてくれるんだよね? 両親に言われたからでもお兄さんのためでもない……?」
「……確かに両親には『織央が戻るまで』と期間付きの婚約を言われていました」
「……そう」
「でもそんなの従うつもりもありませんでした。俺はずっと優海さんのことが好きでしたし、優海さんも好きだと言ってくれたので」
周寧くんは「話すつもりも渡すつもりもありませんでした」と付け足す。
「だけどかっこ悪いですね、両親に初めて反抗しました。俺は優海さんの婚約者を降りることはしない、優海さんは兄さんにも渡すつもりもないって」
「……え」
「なのにこの有様だ、……殴られて気付いた時にはスマホを取り上げられて部屋に閉じ込められていたんだからかっこわりー」
「周寧くんはかっこ悪くなんてない。あの両親が最低だったの、子供を玩具か捨て駒のように思ってるようだったし……あ、ごめんね。周寧くんの前でこんなこと言って」
両親が警察に連れて行かれてあんな親でも育ててくれた親のこと悪く言われたくないよね……